ストーリー

more treesスタッフ、岩手県住田町で2泊3日のワーケーション体験

10月初旬、more treesのスタッフが岩手県住田町で2泊3日のワーケーションを体験しました。ワーケーションとは「ワーク」と「バケーション」を掛け合わせた造語で、リゾート地や地方などいつもの職場とは異なる場所で働きながら休暇を楽しむこと。今回は、港区が主催する「連携自治体ワーケーション促進事業」の一環で、ふだんほとんど出張がないスタッフ2名が住田町を訪問しました。都会では味わえないテレワークの醍醐味とはなんなのか。3日間のプログラムの様子をダイジェストでご紹介します。

1.住田町はどんなところ?

住田町(すみたちょう)は、岩手県の東南部に位置する内陸の町です。宮沢賢治が「風の又三郎」の舞台とした「種山ヶ原」(たねやまがはら)、県立自然公園「五葉山」(ごようざん)、国内屈指の洞内滝がある「滝観洞」(ろうかんどう)など、豊かな自然を誇る町です。アユやヤマメ、イワナなどが多く生息する清流「気仙川」は、住田町を源流とし、カキやホタテの養殖が盛んな陸前高田市の広田湾に注ぎます。隣接する陸前高田市と大船渡市を含めた2市1町は気仙地方と呼ばれ、経済的・文化的に地域間の結びつきが強い地域です。

町の9割を占める豊かな森林と木材加工施設があることから「森林・林業 日本一の町」をスローガンに掲げています。気仙郡、下閉伊郡(しもへいぐん)南部地方で採れる「気仙杉」は年輪幅が広く、軽くて軟らかいため加工しやすいのが特徴です。また気仙大工と呼ばれる優れた宮大工の技術が継承され、高い評価を受けています。

2.スケジュール

今回のワーケーションのスケジュールがこちら。地域でのアクティビティとテレワークを組み合わせた2泊3日のプログラムです。

● 1日目
午前:水沢江刺駅到着、車で住田町へ移動
お昼:住田町で昼食
午後:大船渡市の山林火災跡を視察
   「もりの学び舎」見学
   五葉温泉で入浴
   高橋旅館にチェックイン
夜 :地域の方々との懇親会

● 2日目
午前:イコウェルすみたにてテレワーク
お昼:森(六郎峠)でお弁当
午後:森(六郎峠)で種採り
   イコウェルすみたへ戻り、種の処理
夜 :地域の方々との懇親会

● 3日目
午前:森(箱根峠)や滝観洞周辺で種採り
お昼:滝観洞食堂テラスで昼食
午後:イコウェルすみたにて種の処理、テレワーク
夕方:住田町を発ち東京へ

 

3.宿泊先とワークスペース

①宿泊先:高橋旅館

宿泊でお世話になったのは、創業大正8年、100年以上にわたり地域内外の方々に親しまれてきた高橋旅館です。町のメインストリートに面した入口から中へ入るとご主人が笑顔で迎えてくださり、家庭的で温かな空気の流れるお宿です。華美な飾りつけのない和室は居心地がよく、wifiもあります。感激したのはお布団がふかふかだったこと。外でたくさん体を動かしてもぐっすり眠って朝はすっきり。道路を挟んだ目の前には趣たっぷりの神社があり、朝のお散歩も楽しめました。

②ワークスペース:イコウェルすみた

テレワークを行ったのは「イコウェルすみた」です。町内外の企業や個人が集い、仕事や学びを通じて交流できるよう整備された施設で、リモートワークやサテライトオフィスとしての利用、イベントや講座の開催など、さまざまな用途に活用されています。

wifiや電源が完備されているので仕事をする上で不自由は一切ありませんでした。窓の外に広がる緑ゆたかな景色が心地好く、仕事をしながら同時にリフレッシュもできるのが新鮮!自然あふれる住田町ならではの清々しい体験でした。

 

4.自然や人と触れ合うアクティビティ

①大船渡市の森林火災跡地、もりの学び舎、そして五葉温泉

アクティビティで最初に訪れたのは今年のはじめに大規模な森林火災に見舞われた大船渡市です。住田町で昼食をとってから車で大船渡市へと移動し、火災跡地を車窓から見る機会を得ました。遠くから眺めていると一見なんの被害もないように思える森でしたが、近づくと幹や枝が真っ黒に焼け焦げ、葉が枯れている木々が目に飛び込んできます。ダメージの大きな樹木はいまはふつうに立っているように見えても、放置しておくといずれ倒れ土砂災害などの危険をはらんでいるため、人手をかけて伐採している現場もありました。

青々とした葉が茂っていたり地面から草花が生えていると「自然の再生力はすごいな」という感想が頭をよぎりますが、実際に目で見ると思い込みが外れ、人が関わっていく必要性を肌で感じました。

火災跡地を通り抜け、人里から離れて山道を登っていくと広葉樹を中心とした森が広がる「大窪山森林公園」(県立五葉山公園内)があり、さらに奥へ進んだところに森林学習・展示施設「もりの学び舎」がありました。山中にひっそり佇む三角屋根のかわいらしい建物。なかへ入ると、さまざまな種類の木製のおもちゃが揃う「木育スペース」が見え、大人もついつい夢中になります。

森のことが五感で学べる図鑑や展示のコーナーでは、昭和30年代に里を離れこの地に移り住んだ開拓者がいたことを知りました。子弟にも人並みの教育をという父母たちの願いで「吉浜村立吉浜小学校大窪分校」が開校し、わずか8畳一間の教室で子どもたちが学んでいた跡地がこの「もりの学び舎」。開拓当時、厳しい自然環境に向き合いながらも目を輝かせて山を駆け巡っていた子どもたちの様子を綴った新聞の切り抜きに息をのみました。当時の子どもたちの見ていた景色は、私たちの知っている世界とどれほど違うのでしょう。

大船渡から住田町へ戻る途中、五葉山の麓にある五葉温泉に立ち寄りました。山あいの静かな温泉で広い空と美しい山々を眺めながら浸かる露天風呂は格別。たまたま一緒になった地元の方とのおしゃべりも楽しみ、ローカルならではのほっこりとした温泉タイムでした。

 

②苗木を育てるための種採りと種処理(六郎峠・イコウェルすみた)

今回のワーケーションでの最大のアクティビティは苗木づくりのための種採りと種処理です。more treesの植林地を2カ所巡り、広葉樹の種を探しました。が、今年は猛暑の影響もあってかなかなか種が見つかりません。それでも時折小さな種を見つけると「あった!」と大喜びし、大切に袋にしまいました。

2日目に訪れた六郎峠の植林地の奥には、広葉樹の天然林があります。植林地と天然林のあいだは足場の悪い斜面。滑り落ちないように慎重に歩いて向こう側にたどり着き、天然林のなかを進んでいくとシナノキの巨木に出会いました。推定樹齢は300年ほどだそう。幹に登ってみるとあまりにも高さがあって心臓がバクバクとしましたが、巨きな木の放つオーラが自分を守ってくれているような、とても不思議な感覚を味わいました。

ほんとうならこの森で広葉樹のドングリをたくさん拾う予定が、ここでも種がなかなか見つからず。思った通りにいかないことを残念におもう一方、なんでも人間の都合に合わせようとするより想定外も楽しもう!という気持ちに。クリひとつ拾っただけで宝物に思えました。

拾い集めた宝をイコウェルすみたに持ち帰り、樹種ごとに分け、うまく発芽させるための処理を施していきます。拾った種のなかに偶然シナノキの種が混ざっていて、ここで再びのご対面。こんなにちいさな種に数百年も生きる可能性が詰まっていると思うと、それこそタイパ(time performance; 時が織りなす妙技)だなとしみじみと感じ入りました。

 

③地域の方々との懇親会

夜には、高橋旅館から徒歩10秒のお食事処「古鏡」で地域の方々との懇親会がありました。何を注文してもおいしいと評判のお店で地元のお料理を囲みながら、森の仕事のこと、季節のこと、住田町での暮らしや文化のことなど、都会暮らしでは知りえないお話をたくさん聞かせていただき興味が尽きません。「イタヤカエデから樹液をとるのは2月の20日過ぎがいいんだよ」メープルシロップを毎年手作りしている森の達人のお話を聞いて、また住田へ来たいという思いがふつふつと。「ぜひまたおいで」の温かなひとことが一番のお土産になりました。

2泊3日のワーケーションを終えて東京へ戻り数日が経ったころ、参加したスタッフの鈴木が「住田町に恩返しがしたい」と言いました。その言葉が、今回のワーケーションを象徴しているように感じます。

都会のオフィスを離れて仕事をし、地域の自然や文化、そこに暮らす人々と触れ合うことは心や体をリフレッシュさせてくれますが、それだけではありません。「誰かや何かのために役立ちたい」という気持ちを呼び起こしてくれました。「自分以外の何かの役に立ちたい」という思いこそ、人を深いところから衝き動かしているもの、生き生きとした生命の原動力なのではないでしょうか。

住田町のワーケーションは人を生き生きとさせる。この旅で私たちが得た心からの実感です。

 

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