【森づくりパートナーの声 ♯03】林技術研究所 代表 横井秀一さん

more treesの森づくりは、立場の異なるたくさんの人々の手で成り立っています。木を植え育てる人、木を活かしてものづくりをする人、地域に暮らす人、都市から森を支える人。みなさんとの協働があってこそ、“都市と森をつなぐ”森づくりは続いていきます。連載「森づくりパートナーの声」では、more trees と活動をご一緒いただいているパートナーの方々に、森づくりへの思いや今後の期待や挑戦についてお話を伺います。
―岐阜県立森林文化アカデミーの特任教授をはじめ森林や広葉樹のスペシャリストとしてさまざまな肩書をお持ちですよね。普段のお仕事から教えてください。
以前は岐阜県職員として、森林研究所の研究員と森林文化アカデミーの教員をしていました。いまはフリーランスで森林や造林に関する調査研究、技術指導や助言、造林教育や人材育成に携わっています。たとえば岐阜県飛騨市や愛知県豊田市では行政の取り組みに対する技術的なアドバイスをしており、教育関係では森林文化アカデミーのほかに林業アカデミーふくしまや島根大学、愛媛大学などで教えています。また、林業従事者向けの技術研修や市民向けの森林講座の講師なども務めています。
―なぜ広葉樹を扱う道に進まれたのですか?
岐阜県に就職した当時、県内には高山市と美濃市の2か所に研究機関があって私は高山市の寒冷地林業地試験場に入りました。美濃市の岐阜県林業センターが県下全域を対象としてスギ・ヒノキを中心に扱っていたのに対し、高山市のほうは雪と広葉樹を扱うことに。高山は雪が多くスギ・ヒノキの人工林化が遅れた分、広葉樹が残っていたことや広葉樹の地場産業が盛んだったこともあって広葉樹が対象になったんです。それが今につながります。
―日本各地のさまざまな現場に関わられているなかで、広葉樹の森づくりに対する意識の変化や現場での課題などを感じられることはありますか。
全国的に広葉樹に対する機運が高まっているのは確かです。もともと広葉樹が充実しているところではそれを活かしていこうと考える人が一定数いますし、これからは広葉樹がいいといって新たに向き合いはじめる人もいます。ただ、具体的に何をどうしたらいいか分からないのでアドバイスがほしいという声もよく聞きますね。スギ・ヒノキの造林技術は世界に誇れるほどに成熟していて、林業に携わっていれば自ずと技術が身につきますが、その延長線で広葉樹に向かおうとすると痛い目にあう。広葉樹にそのまま適用できないことも多いんです。ところが広葉樹施業については習得する機会もなくて、手探り状態の人が非常に多いことを全国的な課題として感じています。また、どういう森林を目指すのかがあまりよく見えていない例も少なくありません。広葉樹の森のぼんやりとしたイメージだけあって、具体的な姿を捉えきれていないんですね。
―具体的に危機感を感じた事例などはありますか。
たとえばスキー場の跡地を緑化するとき、多くの場合は植栽という手段をとります。表土を剥いでしまって踏み固められ、雪も積もるという悪条件を考慮しながらその土地にふさわしい樹種の選択をする必要がありますし、植栽の手法も工夫を要するかもしれません。けれどもそうした条件を考えず、森林の多面的機能のうちどの機能を高めるかという目的もはっきりしないまま、安易に桜を選択してしまうとどうでしょう。きちんとした根拠を持って議論するプロセスが抜け落ちているんですね。どんな森づくりをしたいかという目的と、それを具体化するためのエビデンスを持った技術。その両輪で真摯に取り組むことが必要です。
―学生さんたちは広葉樹に対してどのようなイメージを持っているのでしょうか。
興味を持つ学生は多いです。将来、課題研究で広葉樹に取り組もうとしている人もいます。一方、広葉樹施業の講義は少ないのが現状です。スギ・ヒノキ中心で学んでいて、すこし広葉樹の話が出てくる程度。実習も針葉樹の人工林での作業がほとんどですね。森林文化アカデミーでは広葉樹施業に触れる機会もありますが、ほかの林業大学校や大学ではほぼほぼそういう機会はないと思います。
―more treesと出会ってから横井先生ご自身や周囲で変化を感じられたことはありますか。
more treesと一緒に仕事をするようになったのは2022年。東白川の森づくりが動き出したときに相談に乗っていました。それから長野県木曽町、高知県中土佐町、和歌山県田辺市などにも呼んでもらい、それぞれの地域で多様な考え方で森づくりに取り組む人たちと知り合ったことはとても勉強になりました。私自身もより各地の事情に応じたアドバイスを考えるようになりましたし、講師として教える場面でmore treesの取り組みを学生に紹介することもあります。施業内容とその結果を技術的な視点で見る事例として使っているのですが、自分のなかの引き出しが増えたことは非常にありがたいですね。
―2024年のハイライトを教えてください。
木曽町の森では、さまざまな樹種の広葉樹を選び、植え方のデザインを関係者のみなさんと現場で考えて植栽しました。しばらく経って生育調査をした際、一部調子が悪いところがあったので調べてみると、ある理由で土壌構造が破壊されていたことが分かり土壌とそれに適した樹種の関係を見つめ直すとてもいい現場になっています。また、植栽したものだけを育てて自然に生えてきたものは下刈りで刈ってしまうというやり方よりも、天然更新も上手に活かすといいだろうと私は考えているのですが、木曽町も田辺市もそのあたりをしっかりとみていく現場になっています。植栽と天然更新の組み合わせを最初から織り込みながら作業のデザインを考えていくこと。その手法を提示するためのベースになるような情報が得られる場所ですね。 
―これからどんなことに挑戦してみたいですか。
地域産の苗を使った森づくりの比重を高めていけるといいですね。そのためには苗木づくりのノウハウをいろいろな地域で共有する仕組みづくりが大事。そのお手伝いをしたいです。樹種の選択は私自身迷うこともあるので、実際に植えてちゃんと育つかどうかの情報の質はもっと高めたいと思っています。そういうことをmore treesと一緒にやっていきたいです。
―最後に、なぜこれほどまでに森に関わり続けてこられたのか、横井先生を惹きつける森の魅力とは?
森も木もおもしろいし興味が尽きません。とくに広葉樹は多様な樹種があってそれぞれ表情も違うし分布も異なり、広葉樹の多様性を肌身で感じます。私の場合、五感でというよりなぜこの木がここにいるのかとか、10年後はこっちの木はいなくなっているだろうとか、科学的な目、生態の目を通じて考えることが好きですね。自分が持っている知識で目の前の現象を説明できるのは楽しいし、新たな発見もある。つねに知的好奇心に駆られるのが森の一番の魅力です。
インタビュー:2025年2月