ストーリー

「トトロに学ぶ林業経営」(株)中川創業者・中川雅也さん講演【トリエンナーレ2026 in 田辺市「小さきものは何を変えるのか ~森と建築の新しい未来~」】レポ②


2026年1月25日、和歌山県田辺市で「more trees トリエンナーレ2026」を開催しました。

テーマは「小さきものは何を変えるのか ~森と建築の新しい未来~」。建築家でmore trees 代表の隈研吾が代表に就任後はじめての公開シンポジウムに、全国各地から森づくりや林業、建築に関心を持つ人々が集まりました。

故・坂本龍一が2007年に設立したmore treesは、「都市と森をつなぐ」をキーワードに国内外で森林保全活動を続けてきました。2023年に坂本が逝去した後、その志を継いだのが、長年の友人でもあった隈です。

この記事では、more treesの活動紹介、隈研吾の基調講演、田辺市で林業ベンチャーを率いる中川雅也さんの講演、そして真砂充敏市長を交えたパネルディスカッションの内容を3回に分けてお届けします。

レポ①「小さきものの力」隈研吾 基調講演
レポ②「トトロに学ぶ林業経営」中川雅也さん講演 ←本記事
レポ③「インクルーシブな未来へ」パネルディスカッション

3. 中川雅也 講演

3歳の息子に論破されて

休憩を挟んで登壇したのは、株式会社中川の創業者・中川雅也さんです。田辺市生まれ、田辺育ちの中川さんは、大学卒業後にインドネシアで貿易業に携わった後、地元に戻り森林組合に就職。2016年に独立して会社を設立しました。現在、従業員30名で育林事業を展開しています。

起業のきっかけは、当時3歳だった息子の一言でした。

「息子に『遊んでほしい』と言われました。話しているうちに、3歳の息子に論破されてしまったんです。お父さんが3歳の息子に論破されると、お父さんを辞めるか、仕事を辞めるかの選択を迫られる。さすがに3歳の息子と1歳の娘がいる状態で、お父さんを辞めるわけにはいかない。必然的に辞めるのは仕事しかありませんでした」

転職活動の最終面接で、「朝起きて子どもが遊んでほしいと言ったら、会社を休んでいいですか」と質問した中川さん。どの会社からも良い返事はもらえませんでした。

「都会に行っても働きたい会社がないなら、作るしかない。そう思って林業の会社を作ることを決めました」

なぜ林業を選んだのか。中川さんの答えはシンプルでした。

「林業ではおじいちゃんが木を植えて孫が伐るという、60年から70年のサイクルが一般的。ということは、最終納期が60年。日本で一番納期が長い仕事じゃないかと」

「出版業界にいて『来月納期です』と言われたら、休みたくても休めない。今の日本人は納期詰め込み型の働き方をしているからしんどい。田舎でできる最大限時間軸の長い仕事を考えた時に、林業しかないと思いました」

調べてみると、林業従事者は減少の一途。山はたくさんあるのに働く人がいない。逆に言えば、働く人さえ集めれば仕事は無限大にある。「ブルーオーシャンだ」と感じたといいます。

「そして何より、山は存在するだけで約75兆円もの環境的な価値がある。田辺市の面積で割り戻しても年間約30億円。仕事をすればするほど、費用対効果の高い業種だと確信しました」

 

ロールモデルは「トトロ」

林業で起業すると決めた中川さんが、ビジネスモデルのヒントを求めて出会った経営者は意外な存在でした。

「唯一出会えた、造林事業で儲かってる経営者がこの方でした。スタジオジブリの映画『となりのトトロ』のトトロさんです」

会場に笑いが起きる中、中川さんは真剣な表情で続けます。

「この方の何が素晴らしいか。まず、夜になったら猫バスと一緒にお酒を飲みに行く。だから夕方くらいまで二日酔いで寝ている。メイちゃんが空から降ってきても目が覚めない。そしてやっているのは、どんぐりを集めて山を作ること」

「さらにすごいのが、映画の中でメイちゃんが行方不明になった時、青ざめたおばあちゃんと一緒に村の人たちがみんなで探してくれる。見つかった時にはみんなが笑う。これがウェルビーイングです」

生物多様性とウェルビーイング。現代に求められるこの2つを、1980年代の映画の中で実現している経営者がいた。真似しない手はない。

「トトロがやっていることを経営学的に分析しよう。そう思ったのが、弊社のビジネスモデルの原点です」

 

どんぐりから始まる地域循環

従来の林業は補助金ありきで、スギ・ヒノキを植えるのが主流でした。しかし人口減少が進む日本で、これから数十年先にスギ・ヒノキを植えてどうなるのかと中川さんは問いを持ちます。

「広葉樹を植えたいと思いました。でも2016年当時、広葉樹植栽はまだ盛んではなく、和歌山県産の広葉樹の苗が手に入らなかった。じゃあ自分たちでどんぐりから苗を作ろうと」

地域の散歩しているお年寄りや子どもたちにどんぐりを拾ってもらう。地域の人々が出した生ごみで作ったコンポストの土を肥料にする。アブラムシよけの殺虫剤の代わりに、子どもたちにカエルを捕まえてもらう。徹底した地域依存型で苗木を作る仕組みを構築しました。

ビジネスモデルの構築には、3つの業界からヒントを得たといいます。

自動車産業からは「分業」を学びました。木を植えて育てて伐るところまで全部やると、一人前の職人を育てるのに20年かかる。しかし「植えて育てる」部分だけに特化すれば5年で育てられる。

外食産業からは「トッピング事業」を学びました。牛丼の利益率はそれほど高くないが、キムチトッピング100円、チーズトッピング100円というトッピング事業は利益率が高い。本業を軸にしてトッピングする事業で利益を出す。

ゲーム産業からは「2つのペルソナ」を学びました。ゲームのCMは子どもに「欲しい」と思わせ、親に「しょうがないね」と財布を開かせる。山林所有者にお金がなくても、代わりにお金を出してくれる企業がいればいい。

「そうやって企業をリサーチしているタイミングで、ちょうど出会ったのがmore treesでした。私たちの活動にスポンサーしてくれる企業を探してくれるのがmore trees。企業が求めている植樹の方法や地域貢献への思いを実現・実行するのが私たち。しっかり棲み分けることで、地域的にも環境的にも企業的にもwin-winの関係が築けています」

 

「ローカルヒーロー」作戦

山林所有者から山を預かるために、中川さんはユニークな作戦を展開しました。地域の小学校で「山の授業」を行い、最後に「宿題」を出すことに。

「山って素晴らしいよね。ということは、この素晴らしい山を育ててきた森林所有者は、地域にとってヒーローだよね。ここでみんなに宿題を出します。ローカルヒーローを探しましょう。家に帰っておじいちゃんおばあちゃんに『うち山持ってるの?』って聞いてください。『持ってるよ』って言われたら、『すごいね、おじいちゃんヒーローだね』って声をかけてほしいんです」

翌日から、「孫にヒーローって言われた」と喜ぶお年寄りたちが、次々と山を預けてくれるようになりました。

「結果、弊社は民有林だけで4,200ヘクタールの山を預かっています。営業マンはいません。営業マンは弊社のクライアントになってくれた山林所有者と子どもたちです」

 

朝5時から11時で仕事が終わる会社

株式会社中川の働き方は、一般的な会社とは大きく異なります。夏場は朝5時から始まり、11時には仕事が終わる。残業は基本的にありません。

「夏場は昼寝して、毎日3時くらいから釣りに行っていたら、隣にいたおじいさんに『兄ちゃん、若いんやから仕事せな。紹介してやろうか』って声をかけられます。ニートだと思われています(笑)でも人知れずめちゃめちゃ働いているんです」

大型ドローンの導入も大きな転機となりました。25キロの荷物を運べるドローンを自社で開発。数時間かけて人が斜面を登り運んでいた荷物を、往復2分で運べるようになり肉体的な負担が大幅に軽減されました。

「これによって、従来は難しかった女性の雇用が可能になりました。今、弊社には6人の女性がいます。林業界では2割でも多いと言われますが、私にとっては2割しかいないことが違和感。もっと変えていきたい」

トトロに学んだビジネスモデルで、子どもたちが拾ったどんぐりを育てて苗木にし、お年寄りを「ローカルヒーロー」に変え、山を預かる信頼関係を築いている。小さな種から大きな循環を生み、林業を日本一自由な仕事に変えたいという中川さん。この思いと実行力に共感するのは、決して林業界の人たちだけではないはずです。

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