ストーリー

「インクルーシブな未来へ」パネルディスカッション【トリエンナーレ2026 in 田辺市「小さきものは何を変えるのか ~森と建築の新しい未来~」】レポ③


2026年1月25日、和歌山県田辺市で「more trees トリエンナーレ2026」を開催しました。

テーマは「小さきものは何を変えるのか ~森と建築の新しい未来~」。建築家でmore trees 代表の隈研吾が代表に就任後はじめての公開シンポジウムに、全国各地から森づくりや林業、建築に関心を持つ人々が集まりました。

故・坂本龍一が2007年に設立したmore treesは、「都市と森をつなぐ」をキーワードに国内外で森林保全活動を続けてきました。2023年に坂本が逝去した後、その志を継いだのが、長年の友人でもあった隈です。

この記事では、more treesの活動紹介、隈研吾の基調講演、田辺市で林業ベンチャーを率いる中川雅也さんの講演、そして真砂充敏市長を交えたパネルディスカッションの内容を3回に分けてお届けします。

レポ①「小さきものの力」隈研吾 基調講演
レポ②「トトロに学ぶ林業経営」中川雅也さん講演
レポ③「インクルーシブな未来へ」パネルディスカッション←本記事

4. パネルディスカッション「インクルーシブな未来へ」

シンポジウムの最後は、隈、中川さんに真砂充敏・田辺市長を加えた3名によるパネルディスカッション。進行は水谷事務局長が務めました。

熊野は「インクルーシブ」の聖地

基調講演で隈が語った「インクルーシブ(包摂的)」というキーワードを受けて、真砂市長が熊野の精神性について語りました。

「聞きながら頷いていました。実は熊野そのものが、もともとインクルーシブなんです。誰も排除しない。全ての人を受け入れてきた聖地です。女人禁制もありませんし、体に障害のある方も詣でることができた。小栗判官の物語はまさにそれを象徴しています」

熊野古道は2004年にユネスコ世界文化遺産に登録されました。神道と仏教が融合した神仏習合の地であり、宗教を超えた受容の精神が根付いています。

隈は仕事で訪れたスペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラを思い出しながら「巡礼の道として、熊野古道と雰囲気が似ている」と語りました。

田辺市は2015年からサンティアゴ・デ・コンポステーラ市と観光交流協定を結び、「共通巡礼手帳」を発行。2025年には約5,000人が両方の道を歩いたといいます。

遠く離れたスペインと熊野古道が、「巡礼」という共通点でつながっている。インクルーシブな精神は、国境を越えて人々を引きつけています。

「ふるさと住民登録」と関係人口

真砂市長は、関係人口の拡大に早くから取り組んできました。外からの訪問者が様々なかたちで地域と関係を結んでいく、地域と人の関わりしろを増やす取り組みです。

そして国が検討を進めている「ふるさと住民登録制度」への期待を語りました。

「住民票とは別に、もう一つ住民登録ができる制度です。more treesがやってきた『都市と森をつなぐ』という取り組みは、関係人口の最たるものだと思います。都市と森を行ったり来たりしながら森づくりをしてもらえる。住民票がなくても森づくりには参加できるという方向に転換すれば、人口減少対策の一つになるのではないか」

「友達がダブルになる。人生がすごく豊かになる。制度を変えるだけで、お互いにとって楽しいことができる」と隈も大きく頷いていました。

三者それぞれの展望

パネルディスカッションの最後に、三者がそれぞれの展望を語りました。

「日本海側と太平洋側の林業で連携できたら、大雪が降る時期は太平洋側を手伝いに行き、逆に雪が解けたらこっちに来てもらう。47都道府県に同じマインドを持った経営者を作ることで、日本で一番のノマドワーカー、自由な林業事業体になりたい」(中川)

「田辺市は60年、70年前から拡大造林で丹精込めて木を育ててきました。ちょうどそれらの木が収穫期を迎えて伐る時代に入っています。しかし良いものが良い値段で売れにくくなっている。消費者に日本材の良さをどう伝えるか。皆様のお力をいただきたい」(真砂市長)

「現地に来て、山を歩いて、今日ここへ来て本当によかった。日本全体の森林率が70%というのはすごいことなのに、田辺はそれを上回る森林率88%。これは本当の宝です。教授の志を継いで、more treesがこの宝を守り、生かしていく。その意味の大きさを今日、ひしひしと感じました」(隈)

「小さきもの」から始まる変革

田辺市出身の博物学者・南方熊楠は、粘菌という「小さきもの」の研究を通じて、自然保護の先駆者となりました。合気道の創始者・植芝盛平も田辺の生まれです。「合気とは敵と戦い敵を破る術ではない。世界を和合させ、人類を一家たらしめる道である」という合気道の精神には「小さきもの」が宿っているといえるのではないでしょうか。

坂本龍一がmore treesを設立してから約20年。小さな森から始まった活動は、国内外27地域に広がり、多くの森と人々をつないできました。そして今回、隈研吾という新たな代表のもと、建築と森づくりの両面から「小さきもの」の力を改めて感じることができました。

気候変動、人口減少、担い手不足。私たちは無数の大きな課題に直面していますが、その解決の糸口を「小さきもの」の中に見つけることを次なる変革の一歩にしたいと思います。

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