隈研吾デザイン新作「KODACHI」6月25日発売
棚をひとつ迎えるたびに、森に一本の木が芽吹く。
自然とのつながりと未来への祈りを、
暮らしの片隅に息づかせる――
more treesの新作
KODACHI
木々の中に浮かんでいるような棚をデザインした。
以前デザインしたTSUMIKIの断面を縦に伸ばして柱とし、
それを棚板のエッジに沿ってランダムに配置することで、
棚の上に置かれた「もの」が柱によって見えたり隠れたりする…
そんな森の中で「かくれんぼう」をしているような、
楽しげな風景を生み出したいと考えた。
デザイナー:隈研吾
©Designhouse
坂本龍一と隈研吾の対話、そして棚に込められた「祈り」
2007年、音楽家 坂本龍一が森林保全団体「more trees」を創立しました。2023年、坂本が逝去。その遺志を継ぎ、代表に就任したのが坂本の40年来の友人でもある建築家 隈研吾です。坂本が森に遺した静かな旋律は“おとづれ”(音連れ)となって隈のもとへ。音と建築、異なる表現で自然と向き合ってきたふたりは今なおかたちをかえて対話を続け、KODACHIという棚が生まれました。
「棚」という漢字の右側にある朋は「友、仲間」を意味します。それが「木」と組み合わさることで、棚は崖に沿い木材で棚のように張り出して作った道、「かけはし」を意味するものとなりました。
気候変動、森林破壊、生物多様性の喪失——かつてない速度で自然のバランスが崩れ、地球の未来が不確かさを増すいま、人と自然を、都市と森を、そして現在と未来をつなぐ「かけはし」となりたい。KODACHIは、そんな祈りを暮らしの片隅に息づかせていきます。
商品名 :KODACHI
デザイン :隈研吾(建築家 /more trees 代表理事)
素材 :北海道産シナ合板
サイズ :幅700 × 奥行220 × 高さ540mm(組立式)
重量 :約5kg
耐荷重 :450kg
炭素固定量:約9.2kg
価格 :36,000円 +tax
付属物 :TREES FOR SAKAMOTOのイメージ写真と隈研吾のサイン入り植樹証明が同梱されます
販売開始日:2025年6月25日(水)
販売サイト:more trees STORE「KODACHI」(全国の販売店でも順次取り扱い予定です)
KODACHIから森へ:「植樹」という贈り物
KODACHIを1個ご購入につき、TREES FOR SAKAMOTOを通じて高知県梼原町の森に1本の苗木が植えられます。
梼原町は、坂本がmore treesを立ち上げた2007年当初から活動を共にしてきた、いわば原点の地。同時に、隈にとっても大切な場所です。90年代初頭にバブル経済がはじけ東京の仕事がすべてキャンセルされるという苦難の時期に隈は梼原町を訪れました。
“梼原に出合って、僕は生まれ変わった。梼原で古い木造の芝居小屋に出合い、素敵な森と出合い、様々な職人さんと出会って、僕は生まれ変わった。”(『隈研吾 はじまりの物語 ゆすはらが教えてくれたこと』青幻舎)
木材を活かす独創的な建築スタイルが生まれるきっかけとなった梼原町は、建築家 隈研吾の原点でもあったのです。
坂本と隈、ふたりの森への祈りが重なる地に、KODACHIが1本の苗木を届けます。KODACHIを迎えてくださる使い手の祈りも織り交ぜて。
▲TREES FOR SAKAMOTOは、坂本龍一の森への想いを受け継ぐ植樹のためのドネーションプラットフォーム。5つの地域へ木1本単位での寄付ができ、そのうちの1か所が高知県梼原町です。
KODACHIから使い手へ:「想像力」を呼び覚ます
KODACHIは単にモノを安置するための家具ではありません。使い手を遊びに誘い出し、「想像力」を呼び覚ます“小さな森”です。
天地を逆さにしても、前後を入れ替えても美しく成立するデザインは、どの面も正面となり得る柔軟さをもち、使い手の遊び心をくすぐります。複数個を組み合わせればさらに表情は多様になり、さまざまな風景を立ち上げることができます。
10年前に隈がデザインしたTSUMIKIのオマージュとなる三角の柱は、棚板のエッジに沿ってランダムに配置され、置かれたものを“見せる”だけでなく“隠す”役割も果たします。柱がつくる微妙な陰影や凸凹、色のゆらぎ、軽やかなリズム。そこで見え隠れするモノたちからは息遣いが感じられ、ふとした瞬間に「もういいかい」「まあだだよ」という声が聞こえてくるかもしれません。
素材のこと:「合板」に込めた希い
KODACHIに使われている木材は北海道産のシナ合板です。シナノキは日本固有種で、北海道に多く自生しています。なぜ無垢材ではなく合板を選択したのか。ひとつは、無垢材に比べて合板は木材の伸縮が少なく、棚などの組立式プロダクトに適しているという特性があるためです。そしてもうひとつ、つぎのような想いがあります。
少子高齢化や人口減少により、全国各地で分野を問わず後継者不足が深刻な問題となっている昨今。森づくりや木材利用においても担い手が減り、苦境に立たされる現場をmore treesは数多く見てきました。いかにしてものづくりの火を絶やさずに将来世代へと引き継いでいけるか。私たちはさまざまな方々と議論を重ねました。
そうして行き着いたひとつのかたちが、熟練技術に過度に依存するのではなく、若手スタッフや新たな担い手でも関わりやすい環境を意識したものづくりへの挑戦です。TSUMIKIでは無垢材を採用し手仕事に大きく依存していたのに対し、KODACHIは合板を選び機械加工を多く取り入れるという真逆のアプローチをとりました。合板の選択には、ものづくりの担い手を育て、日本の豊かな木の文化を未来へ手渡していきたいという希いが込められています。
作り手紹介:高い品質とデザイン性を備え、社会的意義も追求していく「滝澤ベニヤ」
北海道芦別市や東川町に拠点を置く滝澤ベニヤ株式会社。1936年(昭和11年)の創業以来、おもに北海道産広葉樹の「単板」(たんぱん/原木を大根のかつらむきのように薄くスライスしたもの)と、それを貼り合わせた「合板」(ごうはん)を製造してきた合板メーカーです。木材とカラフルな再生紙を交互に貼り合わせたオリジナル合板「Paper-Wood」を用いたプロダクトは海外でも脚光を浴び、イギリスのヴィクトリア&アルバート博物館やニューヨーク近代美術館(MoMA)で販売されるなど高い評価を受けています。
滝澤べニヤには「多品種少量生産」という理念があります。まとまった量は確保できないが、いろいろな樹種が少しずつあるという広葉樹の状況をポジティブに捉え直し、広葉樹の多様な個性を活かす合板づくりは、more treesの進める「多様性のある森づくり」と深く共鳴します。地域の森林資源を無駄にすることなく活用し、かつ自然との調和を目指す姿勢は、一貫して安全なノンホルマリン接着剤を使うというこだわりにも表れています。
合板の仕上がりで特に気を遣っているのが「木口断面」です。滝澤ベニヤでは、パッチと呼ばれる工程で単板1枚1枚をすべて人の目でチェックをし、大きな節などは埋め木加工を施して断面に節がでないよう工夫をしています。また、合板の顔となる表面(合板の表面材)についても、職人が1枚1枚単板の色やグレードをチェックしながら選別し剥ぎ合わせをすることで、非常に美しい仕上がりの合板を生み出しています。
作り手紹介:本質を見抜く目と具現化する手を持ち合わせた作り手集団「WOW」
北海道・旭川。明治期に始まった木工の歴史は一世紀を超え、日本有数の木製家具産地として発展してきました。1990年より3年に一度開催されている「国際家具デザインコンペティション旭川[IFDA]」は国内外からその実績を高く評価され、旭川は「家具の聖地」と呼ばれるようになりました。KODACHIの加工を手掛けるのは、旭川に工房を構える家具メーカー「WOW」です。
1972年(昭和48年)創立のこの工房は、創業者・野原壽二が渡独し洗練された技術とデザインを最前線で学んだドイツのシステム家具に影響を受け、「驚き」と「感動」を宿すものづくりを大切にしてきました。IFDAをはじめ数多くのデザインコンペ受賞作品を製作し、旭川の家具業界を牽引しています。
KODACHIの制作には、野原社長をはじめとする熟練の技術者に加え、次世代を担う若手スタッフも参加しました。NC(数値制御)機による精度の高い加工と、人の手と目による繊細な仕上げを組み合わせ、木の息づかいを損なうことなく、一点一点丁寧につくられています。
かつて誰かが植えた木にあらたな命を吹き込み、もうひとつの命を未来の森へと託す。
木を活かし、木を育む、祈りの循環をKODACHIとともに。
撮影協力:廣瀬真也(KODACHI), Takumi Ota(滝澤ベニヤ), 斎藤隆悟(WOW)